こんにちは。AIエンジニアリンググループの矢澤です。
先日カナダのバンクーバーで開催されたNeurIPS 2024に、聴講者として参加しました。 非常に有意義な経験だったので、簡単にレポートしたいと思います (本来はリアルな声を届けるため、イベント開催中にブログを載せる予定だったのですが、間に合わなかったため事後報告とさせていただきます)。
What is NeurIPS?1
そもそもNeurIPSとは何かを知らない方もいると思うので、簡単に説明いたします。
NeurIPSは Annual Conference on Neural Information Processing Systems(神経情報システムの年次カンファレンス)の略であり、AI/機械学習に関する主要会議の一つです。 同様の会議として、ICLR, ICMLなどがあります。 査読済み論文の口頭発表やポスター発表の他、著名人による招待講演や特定のテーマに関するワークショップなどが行われます。
History
1986年に「コンピューティングのためのニューラルネットワークに関するスノーバート会議」で提案され、1987年に最初の会議が開催されました。 当時は、生物学的/人工的なニューラルネットワークの研究者のための学際会議として、「工学的な問題解決」から「生物学的神経系を理解するためのコンピューターモデルの使用」まで、幅広いトピックが含まれていました。 その後、生物学と人工システムの研究は分岐し、最近はAI/機械学習や統計に関する論文が主流となっています。
1987~2000年はアメリカのデンバーで、以降はカナダ(バンクーバー)、スペイン(グラナダ)、レイクタホ(アメリカ)など様々な場所で開催されてきました。 2013年まではワークショップが近くのスキーリゾートで開催されていたようです。
Topics
学会のトピックは、機械学習、神経科学、認知科学、心理学、コンピュータービジョン、統計言語学、情報理論など多岐にわたっています。 2012年にディープラーニングが再注目され、様々な分野(音声認識、物体認識、キャプショニング、言語翻訳など)で成果を上げています。
また、多様性を示すアフィニティグループ(Black in AI, Queer in AIなど)があるのも特徴です。
NeurIPS 2024
今年度のNeurIPSは、2024年12月10日(火)から12月15日(日)2にVancouver Convention Centerで開催されました。 参加費は Workshops & Competitions が 450USD、Conference Sessions & Tutorials が 550USD で、合計 1,000USD(約15万円)となっています。
Main Schedule
主なイベントのスケジュールは以下の通りです。
- Tutorials: 12/10
- Invited Talks: 12/10 - 12/13
- Affinity Workshops: 12/10 - 12/13
- Conference Sessions(Oral, Poster, etc.): 12/11 - 12/13
- Workshops: 12/14 - 12/15
Tutorialsは初日に開催され、比較的広めのテーマについて概要や具体的な技術の説明を行うものです。 専門外の人にも分かりやすく説明されていましたが、自身の知識や英語スキルの不足により完全には理解できなかったため(後述)、改めて発表を見返したいと感じました。
Invited Talks は著名人による講演で、業界全体の歴史や動向、特定のテーマに対する知見などが話されていました。 かなり広めの会場(West Exhibition Hall C)で開催されますが、毎回大勢の人で席が埋まっていて、注目度の高さを感じました。
Affinity Workshopsはワークショップの一種で、多様性に関するテーマ(性別、人種など)ごとにセッションが分かれています。 今回は雰囲気のみを見て積極的には参加しなかったのですが、同じような感じで日本人のコミュニティがあったら、自分のように英語が苦手な人や初参加の人でも会話のきっかけになって良いかもしれないと思いました。
Oralsは特に優れた内容として認められた論文について、研究者らが20分間で発表を行います。 カンファレンスのメインセッションであり、この中から更にベストペーパーも選ばれていました。
Postersはオーラルの論文や、オーラルほどではないが審査通過した論文について、ポスター形式で発表されるイベントです。3 通常のポスターセッションとは別にクリエイティブAI特化型のセッションもあり、デモなどが行われていました。
Workshopsは特定のテーマに関する学会のような形で、丸1日かけて講演やオーラル、ポスター発表が行われます。 メインセッションほどは人がいませんでしたが、特に興味のあるテーマについて理解を深めるには良い機会だと思いました。
Venue
今回の会場である Vancouver Convention Center は Waterfrontにあり、バンクーバー国際空港から電車で30分ほどで到着します。 海の近くで鳥なども飛んでいて、非常に長閑だと感じました。夜になるとライトアップされて少し雰囲気が変わります。
WEST BUILDINGとEAST BUILDINGに分かれていて、それぞれの各部屋でセッションが開催されていました。 会場全体の3Dモデルも公開されているので、興味のある方はそちらを見ていただけると雰囲気が分かります。
How is life in Vancouver?
バンクーバーのWaterfront周辺はお洒落で洗練感があり、街全体がクリスマスムードだと感じました。
カナダは寒いイメージがあったので、寒さ対策として衣類などを準備していたのですが、そこまで日本と変わらない印象を受けました。 ただバンクーバーは雨が多いので、今後行く予定がある方は、折りたたみ傘やフード付きの服を持っていくことをお勧めします。
宿については、公式HPから予約できる会場近くのホテルはすぐに埋まってしまい、少し遠いホテルを予約しました。 それでも会場まで徒歩で約20分で行くことができ、カフェやレストラン・バー、コインランドリー、ジム・プールなども併設していて十分快適だと感じました。
お店は飲食店の他、スーパーや本屋、教会、アミューズメント施設(劇場、カラオケ)などがありました。4 衣料品も多いですが、高価なブランド品が多く、無印良品のような比較的安価なお店も一部ありました。
交通機関含め、クレジットカードがかなり普及していて、現金はほとんど使わずに過ごすことができました。
Food
食事はどれも非常に美味しく、日本人にも合っていると感じました。 価格は少し高く、ホテルの朝食やレストランの食事は1,000-2,000円程度かかります。また食事代の他に、チップ(15-20%)も別途支払う必要があります。 ただホテル内や会場近くにカフェやファストフード(サブウェイ、マクドナルドなど)、フードコート、キッチンカーなどもあるので、多少の節約は可能かと思いました。
日本食として、現地のホットドッグ(JAPADOG)や寿司・麺のお店(Umi Sushi Express)、居酒屋などがあり、結構賑わっていました。 居酒屋のビールについては、数店見た限りですがアサヒビールが多かったです。 また、konbiniyaという日本のコンビニを模したお店があり、品揃えも非常に良く個人的にとても感激しました。
Impressions
Importance of basic research
私自身は現在エンジニアなので、業務で基礎的な研究開発を直接行う機会は少ないのですが、それでも基礎研究の重要性を再認識しました。 企業での開発では、すぐに効果の出る手法や分かりやすい技術が重視されがちですが、基本的なアルゴリズムや、個人的に旧来のものと思っていた手法(CNNやRNN、自己回帰モデルなど)を粘り強く研究したり、それらのアイデアを組み合わせることで、新たな発見に繋げている研究が多くあるということが分かりました。
また、基本的な手法の仕組みやアルゴリズム(例えば生成AIであればTransformerやLDM、Q-Formerなど、統計であれば各種の分布や情報量基準)は最低限理解していないと、提案手法の意義やなぜその手法を選んだのかなどが、すぐに理解できないと感じました。 日頃から論文などで最新手法の理論を調べたり、アルゴリズムを数式として理解・説明する癖をつけたいと思いました。
Lack of English skill
私自身の英語のスキル(ヒアリング力)が足りず、発表内容を十分に理解できないと感じることが多々ありました。 特にチュートリアルやポスター発表などは、専門外の人にも分かる基本的な内容も多かったと感じましたが(研究力が低いという意味ではないです)、スライド・ポスター外の会話やQ&Aの内容が大まかにしか分からない場面があり、非常にもどかしかったです。
また日常会話でも、無意識に失礼な表現をしていないかが気になって、スムーズに話せないこともありました(シャイな日本人の性でしょうか?)。 今後はポッドキャストなどで日常的に英語を聴取したり、場面に応じた英会話レッスンなどを行っていきたいです。
Significance of real participation
今回学会に参加する前は、バーチャル参加や論文を読めば十分なのではないかと考えていました。 しかし実際に参加することで、業界全体の動向やテーマごとの温度感を知れたり、ポスターセッションでインタラクティブな会話が行えるなど、リアル参加の意義は大きいと感じました。
何より、海外カンファレンスの雰囲気や海外での生活を実体験できたことは、個人の価値観のアップデートという意味でも有意義たと思いました。 改めて参加を許可してくださった会社やリーダー陣にお礼を申し上げたいと思います。
今後は研究開発力や英語のスキルを更に磨くことで、自分たちでも論文投稿を行ったり、ポスターセッションだけでなくチュートリアルやオーラルでの質問などを行えるようになりたいと思いました。
Summary
本記事ではNeurIPS 2024の出張報告として、学会の概要やバンクーバーでの生活について共有しました。 学会に参加することで最新の研究に触れることができ、また現地の雰囲気を肌で感じることもできました。
次回は、具体的に興味深かった発表内容や各イベントの詳細について説明したいと思います。
- WikipediaのNeurIPSに関する記事を参照↩
- 当初は12/9から開催される予定でしたが、渡航者への配慮として12/10~に変更となりました↩
- 通常のポスター発表に加えて、OralsやSpotlight Posters、Datasets Benchmarks、Journal Trackなどがあり、旗による目印や展示場所で分かるようになっていました↩
- 余談ですが、近くでテイラースイフトのコンサートが開催されていたらしく、レンタルサイクルの近くに看板が出ていました↩